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1990年サッカーW杯テレビ中継のゲストは王貞治…「サッカーを野球に例えると?」

さかのぼること32年前、1990年(平成2年)開催のサッカーW杯イタリア大会決勝戦、NHKテレビ生中継のエピソードです。カードは西ドイツ対アルゼンチン、解説はメキシコ五輪サッカー銅メダリストでもある釜本邦茂さん、そしてゲストは世界のホームラン王、王貞治さんでした。「元プロ野球選手がサッカー?」と首をかしげた人は多かったはずです。

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王さんは‘88年に巨人の監督を退いたあとNHKの野球解説者を務めていました。その関連もあるでしょうが、なぜ畑違いの王さんがわざわざイタリア現地へ、しかも世界一を決めるサッカー大会の決勝戦に招かれたのでしょう? 

理由は、圧倒的知名度が高い王さんの名前でたくさんの人にサッカーの試合を観てほしい、認知度を高めたい、そんな願いが込められていたからに違いありません。サッカーは世界で最も人気が高いスポーツとされますが、当時の日本ではマイナースポーツで日本代表もW杯と無縁の時代でした。

1981年、「少年ジャンプ」でスタートした漫画『キャプテン翼』の影響で日本のサッカー人口は急増します。しかし競技がイマイチ沸騰しなかったのはテレビで試合を観る機会が極端に少なかったことが挙げられます。

日本サッカー界は1993年にスタートするJリーグのPRを始めていました。‘90年の頃は、多くの国にプロ野球と同じようなプロリーグがあることすら知らない人、クラブチーム世界一を決めるトヨタカップをよく知らない人もたくさんいるレベルだったのです。そこでNHKは、前年に本格始動したBS放送と地上波を含め1990年W杯の全52試合を放送し、サッカーの面白さ、世界のレベル、大観衆の熱狂ぶりを伝えたかったわけです。ちなみにその決勝戦は150カ国に中継され10億人が観ていると紹介されていました。

強引な野球のたとえ

王さんもゲストで呼ばれた意図を理解していたはずです。現地で何試合か観戦したようでしたが、サッカーの知識はあまりなかったように思います。

いよいよ決勝戦キックオフ。本来なら実況アナと釜本さんとのやりとりでスムーズに試合の状況を伝えられたはずですが、王さんというビッグネームに気をつかわないわけがありません。ときどき話を振りますが、どうしても野球に例えたり、野球と比べたり、と野球を絡めなければコメントも求めづらく、例えば・・・

アナ「スライディングというのがサッカーでありますが、野球とはちょっと違いますね」

王 「野球はジャマする人がいませんからね。けがをあまりしないのが不思議ですね」

アナ「ボールのパパッとした(パスの)動きを見てるとダブルプレーのトスをするような」

王 「ええ、手でやってるように動きますよね」

 ・・・王さんも真面目に返答して、さらに頑張って膨らませるように話していましたが、やはりサッカーの試合に野球のたとえが飛び出すと違和感は否めませんでした。アナウンサーも大変そうで、王さんも難しかったでしょうが、一番やりにくかったのは解説の釜本さんだったと思います。

NHKに対してサッカーファンからは抗議の声もあったようですが、王さんの起用はそれも覚悟の上で挑戦したのだと思います。

 日本のサッカーは、この中継から3年後にJリーグがスタートしてブームが巻き起こります。6年後にはW杯初出場。32年後の今年のW杯ではドイツとスペインを撃破するまでに成長しました。今ではW杯を知らない人がいないほど、サッカーは国民的スポーツになりました。昔、サッカーを野球に例えて話すテレビ中継があったなんてウソのようですが、今では笑えるエピソードになって本当にブラボー! です。

(石原久稔)

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