
赤ちゃんを守る「母子免疫ワクチン」無償化が4月に始まった——知らないと損する、RSウイルスの本当のリスク
「うちの子、RSにかかったけど軽症で済んだし大丈夫」——そう思っている親御さんほど、読んでほしい。2026年4月、妊婦を対象としたRSウイルスワクチンの定期接種がすでに始まっている。これまで3万円前後かかっていた費用が原則無料となった。妊婦が定期接種の対象になるのは今回が初めて。生まれてくる赤ちゃんをウイルスから守る「母子免疫ワクチン」が公費で受けられる時代に入ったいま、その制度を知らずにいるとすれば、それはあまりにもったいない。

RSウイルスは「よくある風邪」ではない
RSウイルスは、鼻水・咳・発熱といった症状が風邪に似ているため、見過ごされやすい。だが、乳幼児にとっては話が別だ。
生後1歳までに50%以上が、2歳までにほぼ100%の乳幼児が少なくとも1度はRSウイルスに感染するとされている。生まれたその日から、感染リスクにさらされているのだ。
問題は重症化。
医療機関を受診した2歳未満の乳幼児のうち、約25%が入院に至っており、その中でも生後6カ月未満の赤ちゃんが約40%を占める。2010年代には年間3万〜5万人の2歳未満児が入院を要したとの報告もある。
さらに見過ごせないのは、入院した乳幼児の90%以上が基礎疾患を持っていないという事実だ。「うちの子は健康だから大丈夫」という話ではなく、特別な持病がなくても、誰にでも入院に至るリスクがあるということである。
入院で終わらない——その後の健康への影響
RSウイルスによる影響は、入院した数日間だけにとどまらない可能性がある。
乳幼児期にRSウイルス感染症で入院を経験した子どもは、その後の健康にも影響が見られることがあると報告されている。具体的なデータを見ると、3歳時点では対照群の入院経験率が1%であるのに対し、感染・入院経験のある子どもでは23%に達する。7歳時点では対照群3%に対して30%、13歳時点では対照群5.4%に対して37%と、入院経験や喘息の発症率が高い傾向が報告されているのだ。
山王ウィメンズ&キッズクリニック大森の院長で産婦人科専門医の髙橋怜奈先生は、こう語る。「乳幼児期のRSウイルス感染と気管支喘息発症リスクの上昇には関連があることがわかっています。お子さんが入院することで親が仕事を休む必要が生じ、労働力の低下や経済的なダメージも大きい」
「母子免疫ワクチン」とはどんな仕組みか
今回定期接種となったのは、妊婦が打つことで生まれた赤ちゃんに効果が及ぶ「母子免疫ワクチン(アブリスボ)」だ。妊娠28〜36週の妊婦が1回接種すると、母体内で作られた抗体が胎盤を通じて胎児に移行し、出生時から乳児がウイルスへの予防効果を持った状態で生まれてくる。
有効性のデータは印象的だ。重症の下気道感染症に対して、生後90日以内で約8割、生後180日以内でも約7割の予防効果が認められている。このワクチンはすでに世界65カ国以上で承認されており、実績のある選択肢である。
髙橋先生はこう評価する。「重症例の抑制や喘息リスクの低下、入院などによる家族への負担軽減を考えると、定期接種化は非常に意義深いと思います。入院の重症化予防、将来の喘息リスク低下、そして経済的な負担軽減——こうした多面的なメリットを考えると、一律に接種できるようになる定期接種化は素晴らしいと思います」
「早産リスクが上がる」という噂の真偽
SNS上では「ワクチンで早産リスクが上がるのでは」という声も見受けられる。これについて髙橋先生は明確に否定する。
「早産リスクに関する懸念は、日本で接種できるアブリスボ®筋注用とは別のワクチンの話です。アブリスボ®筋注用では早産リスクの上昇は見られていません。大規模な調査によっても安全性が確認されており、厚生労働省も早産や死産などの重篤な副反応について重大な懸念はないとしています」
副反応としては、接種部位の痛みや腫れ、頭痛、筋肉痛などが報告されているが、「局所反応が最も多く、すぐに収まります」(髙橋先生)とのことだ。なお、ワクチンの成分は胎児には移行しないため、赤ちゃんへの直接的な影響はないとされている。
「上の子がRSで入院して……」現場の声
髙橋先生のクリニックでは、無償化に対して「3万円前後かかっていたワクチンが無料で打てるのはうれしい」「上の子がRSウイルス感染で入院して大変だったから、自費でも接種したいと思っていたのでうれしい」といった声が聞かれるという。
一方で「新しいワクチンだからなんとなく心配」という声もある。だが「説明すると皆さん安心し、ほとんどの方が接種されています」と先生は言う。
「妊婦さん全員に接種をお勧めします。正しい情報を確認したい方は、厚生労働省のページをぜひご覧ください」(髙橋先生)
定期接種の対象は妊娠28〜36週の妊婦で、接種は1回。2人目以降の妊娠でも対象となる。妊娠中の方、あるいは周囲に妊婦がいる方は、各自治体のホームページで詳細を確認してほしい。生まれてくる命への最初のプレゼントが、接種という選択肢になるかもしれない。
【取材・監修協力】
髙橋怜奈先生(山王ウィメンズ&キッズクリニック大森 院長・産婦人科専門医)
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