
年末年始の血糖値スパイクに要注意【忘年会シーズンで糖尿病リスク急増】
秋から年末年始にかけての時期は、日本人の食生活と生活リズムが最も乱れやすい季節。秋の味覚の誘惑に加え、忘年会や新年会などの飲食機会が集中し、寒さで運動不足になりがちな一方で、カロリー摂取量は年間で最も高くなる時期といえる。
毎年この時期になると「健康診断で血糖値が高いと指摘された」「最近異常に喉が渇く」といった症状で受診する患者が急増するという「四谷内科・内視鏡クリニック」に、これから迎える年末年始を健康的に過ごすための糖尿病予防策について解説してもらった。
急増する糖尿病リスク要因

忘年会・新年会シーズンの食生活変化
年末に向けて忘年会、クリスマス、年末年始の帰省など、食事の機会が集中します。1日の総カロリー摂取量が普段の1.5〜2倍になる方も珍しくありません。
特に注意が必要なのは「血糖値スパイク(食後高血糖)」です。空腹状態で糖質の多いお酒を飲んだり、いきなり炭水化物を摂取したりすると血糖値が急上昇し、膵臓に過度な負担がかかります。この状態が繰り返されると、インスリン分泌能力が低下し、糖尿病発症リスクが著しく高まります。
宴会では糖質の多い料理やアルコールが中心となり、野菜や食物繊維の摂取が不足しがちです。これらの要因が重なることで、血糖コントロールが困難になります。
寒さによる運動不足と基礎代謝の変化
気温が下がるこの時期は、屋外での運動機会が激減します。厚生労働省の調査によると、冬季の平均歩数は夏季と比較して約20〜30%減少するというデータがあります。
運動不足は筋肉量の減少を招き、基礎代謝が低下します。筋肉は「糖の貯蔵庫」であり、運動によってブドウ糖を効率的に消費します。運動不足により、この糖の消費機能が低下し、血糖値が上がりやすい体質になってしまいます。
さらに、寒さで体が冷えると、体温を維持するために高カロリーな食べ物を欲する生理的反応が起こります。特に甘いものや炭水化物への欲求が強まり、無意識のうちに糖質摂取量が増加してしまうのです。
年末の多忙によるストレスと睡眠不足
12月は仕事の締めくくり、大掃除、年賀状作成など、精神的・肉体的ストレスが最も高まる時期です。慢性的なストレスは、コルチゾールなどのストレスホルモンを増加させ、血糖値を上昇させます。
また、忙しさから睡眠時間が削られると、食欲を抑制するホルモンが減少し、食欲を増進するホルモンが増加します。その結果、特に夜遅い時間に高カロリーな食事や間食を摂取してしまう「夜食症候群」に陥りやすくなります。
研究によると、1日の睡眠時間が6時間未満の人は、7〜8時間睡眠の人と比較して、2型糖尿病の発症リスクが約1.7倍高いことが報告されています。
季節性の食材と料理による糖質過多
秋から冬にかけては、栗、さつまいも、かぼちゃなど糖質の多い食材が旬を迎えます。また、おでん、鍋料理、シチューなど、体を温める料理が食卓に上る機会が増えますが、これらには意外と糖質が多く含まれています。
特に注意が必要なのは、「ヘルシー」と思われがちな鍋料理です。ポン酢には糖質が含まれ、締めの雑炊やうどんで大量の炭水化物を摂取してしまいます。市販の鍋スープには砂糖やみりんが多く使用されており、1食で50〜60gもの糖質を摂取することもあります。
年末年始の定番であるおせち料理も要注意です。黒豆、栗きんとん、伊達巻など、甘く味付けされた料理が多く、お正月の3日間で通常の2〜3倍の糖質を摂取してしまうケースが少なくありません。
糖尿病の特徴と早期発見の重要性

症状が出にくい「サイレントキラー」
糖尿病の最大の特徴は、初期段階では自覚症状がほとんどないことです。「なんとなく疲れやすい」「喉が渇きやすい」といった軽微な症状は、仕事の忙しさや加齢のせいだと見過ごされがちです。
しかし、これらの症状が現れた時点で、既に血糖値がかなり高い状態になっている可能性があります。この段階では、既に血管や神経にダメージが蓄積し始めており、放置すると深刻な合併症のリスクが高まります。
糖尿病の三大合併症は「網膜症(失明のリスク)」「腎症(透析のリスク)」「神経障害(足の壊疽のリスク)」です。さらに心筋梗塞や脳梗塞などのリスクも著しく高まります。
国内の糖尿病患者数は約1,000万人と推計されていますが、その半数近くが自分が糖尿病であることに気づいていません。適切な対策を講じなければ、数年以内に重篤な合併症に進行する可能性があります。
血液検査による早期発見
糖尿病の早期発見には、定期的な血液検査が最も有効です。
HbA1c(ヘモグロビンA1c)検査:過去1〜2ヶ月の平均血糖値を反映する指標です。正常値は5.6%未満、5.6〜6.5%未満が糖尿病予備軍、6.5%以上で糖尿病と診断されます。当院では当日すぐに結果がわかります。
空腹時血糖値検査:朝食前の血糖値を測定します。正常値は110mg/dL未満、110〜126mg/dL未満が境界型、126mg/dL以上で糖尿病が疑われます。
これらの検査は採血のみで数分で完了します。年末年始の食生活の乱れが気になる方、健康診断で「要注意」と指摘された方は、放置せずに専門医による詳細な検査を受けることが重要です。
糖尿病と消化器疾患の深い関連性
当院は内視鏡専門クリニックですが、実は糖尿病と消化器疾患には密接な関係があります。糖尿病患者様は、大腸がんのリスクが約1.4倍、膵臓がんのリスクが約1.9倍高いことが研究で明らかになっています。
また、糖尿病による自律神経障害は、胃の運動機能を低下させ、胃もたれ、膨満感、便秘・下痢などの消化器症状を引き起こします。当院では、糖尿病専門医と消化器専門医の2名体制により、総合的な健康管理が可能です。
検査を受けるべき方と症状
以下に該当する方は積極的な検査を
・40歳以上の方(特に男性)
・BMI 25以上の肥満傾向にある方
・家族に糖尿病患者がいる方
・健康診断で血糖値やHbA1cの異常を指摘された方
・血圧が高い、脂質異常症がある方
・運動習慣がない方
・過去に妊娠糖尿病を経験した女性
注意すべき症状
以下の症状がある場合は、速やかに専門医による検査をお勧めします。
・異常な喉の渇きと多飲
・頻尿(特に夜間)
・食べているのに体重が減る
・異常な疲労感
・傷が治りにくい
・視力の低下
・手足のしびれ
これらの症状は糖尿病の進行を示唆している可能性があり、早急な対応が必要です。
年末年始の糖尿病予防対策

忘年会・新年会での実践的対策
完全な食事制限は現実的ではありませんが、以下の工夫でリスクを大幅に軽減できます。
食べる順番を意識する:最初に野菜やキノコ類などの食物繊維を摂取し、次にタンパク質(肉・魚)、最後に炭水化物の順番で食べることで、血糖値の急上昇を防げます。
炭水化物の量をコントロール:ご飯、麺類、パンなどの主食は、普段の半分から2/3程度に減らしましょう。代わりに野菜や海藻、豆腐などで満腹感を得ることを意識します。
お酒の選び方と飲み方:ビールや日本酒、甘いカクテルは糖質が多いため、焼酎、ウイスキー、ワイン(辛口)などの糖質の少ないお酒を選びましょう。また、飲酒前に軽く食事を摂り、空腹での飲酒を避けることが重要です。
寒い季節でも継続できる運動習慣
糖尿病予防には、週に150分以上の中強度運動が推奨されています。
室内でできる運動:スクワット、踏み台昇降、ラジオ体操など、天候に左右されない室内運動を習慣化しましょう。食後30分〜1時間後の運動が、血糖値低下に最も効果的です。
通勤時の工夫:エレベーターではなく階段を使う、一駅分歩く、駅構内では早歩きするなど、日常生活に運動を組み込みます。
ウォーキングの継続:寒さ対策をしっかり行い、日中の暖かい時間帯に30分程度のウォーキングを続けましょう。毎日少しずつ継続する方が血糖コントロールに効果的です。
ストレス管理と睡眠の質向上
年末の多忙期でも、睡眠時間は最低6時間、できれば7〜8時間確保しましょう。就寝前2〜3時間は食事を避け、スマートフォンやパソコンの使用を控えることで、睡眠の質が向上します。
年末年始の食材選びと調理法
おすすめの食材:白菜、大根、ほうれん草、きのこ類、海藻類、こんにゃく、豆腐、鶏肉、魚類など、低糖質で栄養価の高い食材を積極的に取り入れます。
調理法の工夫:煮物や鍋料理の味付けは、砂糖やみりんの量を通常の半分にし、だしや香味野菜で風味を補います。
おせち料理の注意点:黒豆や栗きんとんなどの甘い料理は少量にとどめ、昆布巻き、数の子、焼き魚など糖質の少ない料理を中心に楽しみましょう。
糖尿病は早期発見により、食事療法や運動療法だけでコントロールできる可能性が高まります。年末年始の食事を心から楽しみながらも、健康的な生活を維持するために、この機会にぜひ一度検査を受けていただくことをお勧めします。
取材協力:
四谷内科・内視鏡クリニック
https://www.yotsuya-naishikyo.com/
院長:高木 謙太郎
取材/文 石田あかね
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