
若者の「梅離れ」に挑む異業種出身社長の逆転発想――規格外梅は資源になるか?産地が直面する「価値再編」
日本を代表する伝統食品である梅干しが転換点を迎えている。総務省や農林水産省の統計などでも、高齢化や担い手不足、気候変動による農業リスクの拡大が指摘されており、梅産地も例外ではない。また、規格外品や加工副産物の活用不足といった課題も長年続いている。
こうしたなか、和歌山県産梅を活用した商品開発を進める梅星食品は、従来とは異なる発想で梅の再価値化に取り組んでいる。同社の事例からは、伝統食品を次世代へつなぐためのヒントと、地域産業が抱える構造課題の一端が見えてくる
なぜ梅離れが進むのか――伝統食品が抱える壁
梅干しは長年、日本の食文化を支えてきた保存食品である。一方で近年は食生活の多様化が進み、若年層を中心に梅干しを日常的に食べる機会は減少しているとされる。
梅製品の企画・販売を手がける梅星食品の代表取締役・佐藤悦弘氏は、「梅には本来多くの魅力があるが、その価値が現代の生活者に十分伝わっているとは言い難い」と話す。同社によると、伝統食品としての価値が認知されていても、日々の生活導線の中で選ばれにくくなっている側面があるという。

佐藤氏は、伝統を守ることと現代化を進めることを対立軸として捉えるのではなく、「現代のライフスタイルに合わせて伝え方や食べ方を再設計する必要がある」と説明する。
背景には、消費者の変化だけでなく、生産現場を取り巻く環境の変化もある。農業分野では担い手不足や高齢化が進み、気候変動による収量変動も課題となっている。梅産地においても同様の問題が指摘されている。
ただし、消費者ニーズの変化に対応した商品開発だけで産地の課題が解決するわけではない。生産者の減少や事業承継など、産業基盤そのものの維持が問われていることも見逃せない。
規格外品は「損失」か――雹害梅を商品化した発想
農産物の世界では、品質に問題がなくても見た目によって市場価格が大きく左右されるケースが少なくない。特に果実類では傷や変色によって規格外品となり、流通価値が下がることがある。
梅星食品が展開する「鬼梅」は、こうした課題への一つのアプローチである。紀州南高梅の梅肉を一口サイズのパウチに加工した商品で、仕事中や運転中などにも手軽に摂取できる形態を採用している。

同社によると、開発の背景には雹被害によって傷がついた梅の存在があった。外観評価では不利になるものの、果肉自体の品質に問題がないケースも多いという。ペースト加工によって外観評価の影響を受けにくくし、原料価値を維持する狙いがある。
食品ロス削減への関心が高まるなか、こうした加工技術を活用したアップサイクルは他の農産物分野でも広がりつつある。規格外品を廃棄対象ではなく資源として捉える考え方は、今後の農業経営において重要性を増す可能性がある。
もっとも、規格外品活用だけで産地全体の収益改善につながるかは未知数である。加工コストや販路開拓の負担もあり、継続的な需要創出が不可欠となる。
副産物は埋もれた資源か――梅酢活用が示す可能性
食品産業では主原料に注目が集まる一方、副産物の扱いが課題となることも多い。梅加工においては、梅を塩漬けする過程で生まれる「梅酢」がその一例である。
梅星食品が販売する「ウメスコ」は、この梅酢を活用した辛味調味料である。梅の酸味と唐辛子の刺激を組み合わせた商品で、同社は梅酢の新たな用途開発として位置づけている。
一般的に梅酢は塩分濃度が高く用途が限られるとされるが、食品ロス削減や循環型社会への関心が高まるなかで、副産物の再活用は多くの食品メーカーに共通するテーマとなっている。

佐藤氏は「梅業界にはまだ活用しきれていない素材が多く残されている」と話す。主原料だけでなく副産物まで含めて価値を見直すことが、産業全体の持続性向上につながるという考えだ。
一方で、副産物活用は商品化できれば成立するという単純な話ではない。消費者に新しい用途を浸透させるには時間を要し、市場形成の難しさも伴う。素材の価値をどう伝えるかが今後の課題となる。
伝統産業は変われるか――外部人材がもたらす視点
地域産業では、長年培われた技術や商習慣が強みとなる一方で、新たな発想が入りにくいという側面もある。
佐藤氏はもともと梅干し業界の出身ではない。同氏は異業種から参入した立場だからこそ、「梅の価値が十分に伝わっていないのではないか」と感じたという。
地方の食品産業では、生産者の高齢化や後継者不足が全国的な課題となっている。農林水産省の「2020年農林業センサス」によると、基幹的農業従事者の平均年齢は67.8歳で、65歳以上が全体の7割近くを占める。農業経営体数も長期的な減少傾向が続いており、産地の維持そのものが問われる局面に入っているとみられる。
こうした状況下では、従来の販売方法や商品構成だけで市場を維持することは難しくなる可能性がある。規格外品や副産物の活用、新しい販路の開拓、若年層への訴求など、多面的な取り組みが求められる。
ただし、商品開発だけで地域産業の持続性が担保されるわけではない。産地に生産者が残り続けるか、地域内の商流や雇用が維持されるかといった課題も存在する。梅産業の将来は、新たな価値創出と産地基盤の維持を両立できるかにかかっているといえそうだ。
【取材協力】
株式会社梅星食品代表取締役 佐藤悦弘氏
https://www.umehoshi.co
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