日本で唯一の原毛加工業者として、筆作りと文化の保護にまい進
国内シェアの約8割を占め、世界でも高い評価を得ている熊野筆。その生産を支えるだけでなく、高め合う関係でもあるのが株式会社ウエダ美粧堂だ。同社は日本で唯一、原毛の輸入加工と販売を行うことで知られ、自社でも化粧筆や和筆などを製造。熊野筆と並ぶ品質の良さで評価を得ており、長年に渡り培った技術の上にあぐらをかかず、日々挑戦を続けている。そんな同社の加工技術、業界の抱える課題、今後の販路について探った。
長年培われた原毛加工と筆作りの技術で、国内最高峰の品質を生み出す
ウエダ美粧堂の歴史は古く、1945年に創業者である植田竹一氏が東大阪で原毛の輸入加工を始めたことに由来している。ひと口に原毛といっても、山羊や馬のような家畜由来のものから、松リスやイタチのような野生由来のものなどさまざまであり、同社では自社のシリーズや、ブラシのタイプごとに原毛を使い分けて展開している。「粉の付きがいい山羊の毛は、パウダーブラシやフィニッシングパウダーブラシに、コシが強いイタチやコリンスキーは、リップブラシに向いています」と同社の営業を担当する植田馨介氏はいう。
筆作りの工程は一部を除き、ほとんどが職人の手作業によるものだ。ここで同社の三つの技が光る。一つ目は目利きだ。野生動物由来の原毛の場合、出回るその年によって質に大きな違いが見られる。それを見極め、製品としての品質を一定に保つことができるのは、長年の経験があるからこそである。二つ目が原毛の美しさを引き出す精毛の技。日本伝統の手法を基礎に、薬品を使用するというヨーロッパの手法を取り入れることで、原毛の表面を傷つけずに加工することを実現させた。三つ目の穂先を作る技は、職人の手作業によって行われる。束ねた加工毛の形を整えるために機械でカットすると、毛の断面が平らになり、感触が悪化してしまうからだ。加えて、刃物で加工毛の束をなでることで、キューティクルの感触を確かめ、逆さまに植えられた毛を見つけ出すというのは、まさに熟練の技といえるだろう。
代替となる加工毛で筆作りの技術と文化継承を支えたい
現在、野生由来の原毛の急激な価格高騰が業界を騒がせている。国際情勢、野生動物の取引の禁止、担い手の高齢化、ライフスタイルの変化などさまざまな要因が重なった結果だ。イタチに関していえば、2013年頃から比較すると、新型コロナウイルス禍前までは約3倍、直近の価格では約7、8倍近くまで膨れ上がった。中国を中心としたアジア圏では天然の原材料が未だ人気で、入手するためには出し惜しみをしない。高騰していても売れ残ることがないことから、今後も価格は下がらない見通しだ。
どれだけ価格が上がっても、原毛の輸入加工業者としての顔も持つウエダ美粧堂は取り扱いを継続するが、国内の筆作りに影響が及ぶことを想像するのは難しいことではない。書道筆に主に使用するのはイタチであり、個人で筆作りを行っている業者の中には廃業を口にする人も多いという。
「筆作りは豊橋や奈良でも盛んに行われていましたが、衰退する一方です。ですから、私たちは筆作りの文化を守るために、挑戦をし続けなければいけません」と、そのまなざしは真剣だ。同社では、イタチの毛と人工毛を混ぜる手法を提案。一般人には原毛との区別が付かないほどのクオリティだが、職人をうならすまでには達していない。「筆作りをする職人はみなこだわりが強くて、まだまだ現状では使ってもらえません。彼らに納得してもらえる質のものを作りたいですね」と意気込みを見せる。
日本が誇る高品質の化粧筆の魅力を国内外に向けて幅広く展開
ウエダ美粧堂では、今後国内外に向けてより広い商品展開を行うという。海外では化粧をする際に筆を使うという文化が日本よりも浸透しており、同社の品質であれば需要が大いに見込める。日本国内では黒や白を基調とした化粧箱を使用しているが、例えば中国向けには赤や金を取り入れるなど、各国の嗜好に合わせた展開も検討中だ。2023年は海外展示会へのより積極的な出展を予定。2025年に大阪で行われる日本国際博覧会でのアプローチも検討するなど、情報発信にも意欲的だ。
国内の市場に目を向ければ、リピート購入が伸びないことが悩みの種だった。高品質であるがゆえに、取り扱いに気を付けさえすれば10年は使用できるというのが、その理由だ。そこで考えたのが、贈り物として提案をすることによる需要の創造だ。「当社の筆は、両親から子どもへの成人祝い、結婚祝い、パートナーへの誕生日など、晴れの日を祝う贈り物としてふさわしい品格を備えています」と需要を見込んでいる。これによって、今までは届きづらかった若年層にもアプローチをするのが狙いだ。「化粧筆の製造業者としてはもちろん、原毛を取り扱う業者としても国内の筆作りに寄与し、筆業界全体の発展と、世界における日本ブランドの認知度の向上を目指しています」と語る言葉には熱がこもっていた。
企業名:株式会社ウエダ美粧堂
URL:https://www.cosme-bisyodo.com/index.html
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