
再生医療を変えるか、「DEL-1」が秘める老化制御の可能性―― 健康寿命を左右する新常識
体内に存在するタンパク質「DEL-1(デルワン)」への理解を深めるため、2026年4月22日、東京・日本橋にてメディア関係者を対象とした最新研究解説セミナーが開催され、DEL-1研究の第一人者である新潟大学大学院医歯学総合研究科の前川知樹研究教授が講演を行った。

人生100年時代といわれる現代、いかに健康寿命を延ばし、自立した生活を維持するかは、社会全体、そしてビジネスパーソン個人にとっても喫緊の課題だ。前川教授は、このDEL-1の研究を通じ、従来の外科的・高コストな再生医療とは一線を画す、投薬や生活習慣による新たなアプローチを提示している。

DEL-1は、もともと人間の体内で作られるタンパク質である。近年の研究により、炎症を制御し、組織の修復を促す多彩な機能が明らかになってきた。前川教授は、この分子を「老化細胞だけを認識して、皆さんの体の中から除去してくれるタンパク質」と説明する。
通常、役目を終えた細胞は死滅して除去されるが、加齢とともに「老化細胞」として組織に蓄積し、慢性的な炎症や組織破壊を引き起こすようになる。DEL-1には、これらの老化細胞を自死(アポトーシス)させ、さらに免疫細胞に働きかけて不要となった細胞の除去を促す役割があるという。

注目すべきは、血液中のDEL-1濃度と年齢の相関だ。日米独の5,000人を対象としたデータでは、20代までをピークに、30代から50代にかけて濃度が大幅に減少し、70代以上では極めて低い数値を示す傾向が確認されている。前川教授は「年を取ると怪我の治りが遅かったり風邪を引きやすかったりするが、これを若いうちの状態に戻せれば非常に有益」と述べ、DEL-1の維持が老化抑制の鍵になると見ている。

DEL-1の特長は、特定の部位にとどまらず全身の組織に作用する「汎用性」にある。

例えば、超高齢社会で課題となっている骨粗しょう症については、2026年1月に発表された研究により、DEL-1が骨を作る「骨芽細胞」の老化細胞を選択的に取り除くことが示された。前川教授によれば、現在の骨粗しょう症治療は骨の破壊を止めるものが主だが、DEL-1を誘導することで「老化細胞を除去し、副作用を抑えながら骨を作り、改善する」という、根本治療に近いアプローチが可能になるという。

また、腎臓や脳もDEL-1を多く産生する主要な器官である。
「1箇所の臓器が不調になると、全身のDEL-1が減少し、他の臓器もまた不調になってしまう可能性がある」と前川教授は指摘する。特に腎不全と全身のDEL-1減少には密接な関わりがあり、十分なDEL-1を維持することが、要介護の一歩手前とされる「フレイル(虚弱)」の予防に直結すると考えられている。実際に、DEL-1を高く維持したマウスは、通常のマウスに比べ約220日、つまり寿命の4分の1ほど長く生きるという結果も得られている。

高額な費用や高度な手術を伴う従来の再生医療とは異なり、DEL-1を活用した手法は「投薬」や「生活習慣の改善」という身近な手段で実現できる可能性がある。前川教授は、日常生活でDEL-1を増やす方法として、エビデンスに基づいた2つの習慣を提案している。
一つは、継続的な運動である。「1日1時間のウォーキングを1か月続けると、DEL-1量が約1.5倍に増加する」という臨床データが示されている。

もう一つは、「アマニ油(オメガ3脂肪酸)」の摂取だ。1日大さじ1杯のアマニ油を1か月続けることで、同様に約1.5倍になることが期待できる。オメガ3には、DEL-1の産生を阻害する酵素の働きを抑えるメカニズムがあるためだ。ただし、酸化しやすい性質を持つため、前川教授は「できあがった味噌汁や納豆などに直接かけて摂る」といった、摂取法を推奨している。また、アマニ油を取り入れたレシピも紹介された。

現在、前川教授の研究グループは、唾液からDEL-1量を測定し、それに基づいた「体内年齢(DEL-1年齢)」を算出する取り組みを始めている。青森県弘前市での大規模な住民健診プロジェクト(岩木健康増進プロジェクト)においても、DEL-1を健康指標の一つとして確立するための調査が進んでいる。
前川教授は、「数値を一度測るだけでなく、2回目、3回目と測って、生活改善によりどう良くなっていくかを見ていただくことに価値がある」と語る。
年齢という抗えない指標に代わり、個人のコンディションを客観的に管理する。DEL-1マネジメントは、個人の生産性を維持し、持続可能な医療環境を築くための、新たなヘルスケア・プラットフォームとなる可能性を秘めている。
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