
「令和の赤ひげ先生」が語る 子どもの不安症 ー 早期発見と家庭でできる3つの予防法
医療法人社団先陣会の理事長として複数の病院を経営しながら、自身も児童精神科医として多くの患者と向き合う大和行男氏。その姿勢から「令和の赤ひげ先生」とも称される。今回は、コロナ禍以降に増加しているとされる児童の「不安症」について話を伺った。
現代の子どもたちを悩ませる「不安症」とは
不安症(不安障害)とは、不安や恐怖の感情が過剰に現れ、日常生活に支障をきたしてしまう状態を指します。代表的な症状のひとつに「視線恐怖症」があります。
例えば、コロナ禍の学校では、給食やお弁当を食べる際、全員が前を向いて黙って食べる「黙食」が求められました。食事が終わればすぐにマスクを着用しなければならず、極端な話、3年間マスクを外した自分の顔を他人に見せたことがないという子どももいます。その結果、マスクを外すこと自体が怖くなり、不登校につながるケースも少なくありません。
また、SNSの普及も不安症と密接に関わっています。クラスの友人たちがSNSを活用する様子を見て「自分には何もない……」と感じ、強い不安を抱えてしまうこともあります。これが必ずしも心の病気とは言い切れませんが、私にとっては診断の有無は関係ありません。その子が楽しく過ごせるようになることが、私の使命だと思っています。

親子で向き合うことが大切
不安症に悩む子どもたちと同じくらい、親御さんも深く悩んでいます。「なぜこんなになるまで気づかなかったのだろう」と後悔する親御さんも少なくありません。こうしたケースでは、親子が「一緒に良くなっていく」ことが大切です。
私のポリシーとして、患者さまを「くん」「ちゃん」付けで呼ばないようにしています。年齢に関係なく、一人の人格者として尊重し、「さん」で呼ぶようにしています。これにより、「この先生は自分のことを尊重し、理解しようとしてくれている」と感じてもらえるのです。そして親御さんにも、「お子さんを一人の人間として尊重してほしい」というメッセージを伝えたいと思っています。
児童精神科には「治療に時間がかかる」というイメージがあるかもしれませんが、実際には早期発見・早期治療で改善するケースも多くあります。1〜2回の診察で大きく回復する患者さまも珍しくありません。
昨年、驚いたことがありました。通院3回目の診察で、ある女の子が「私、何に悩んでいたんでしたっけ?」とすっかり元気になったのです。お母さんも驚いていました(笑)。治療が終わった後も「また来たい」と言ってくれる子どもたちが多く、「近くに来たから寄りました」と顔を見せに来てくれることもあります。本当に嬉しいですね。
3つのポイントで不安症を予防できる
親御さんにぜひ実践してほしい、簡単にできる3つのポイントをお伝えします。
1.子どもの不安を無理に聞き出さない
子どもが不安を感じているとき、「どうしたの?」「何を考えているの?」と問い詰めるのではなく、気分転換にドライブに行くなど、自然な形で寄り添うことが大切です。
2.カフェインを控える
コーヒーやエナジードリンクには多くのカフェインが含まれています。カフェインを控え、麦茶やルイボスティーに置き換えるだけでも、子どもの心身に良い影響を与えます。
3.セロトニンを増やす食事を心がける
セロトニンというホルモンが不足すると、不安や気分の落ち込みが生じやすくなります。セロトニンの原料となる「トリプトファン」を含む食品(乳製品、豆製品、蕎麦、バナナなど)を積極的に摂ることで、不安の予防につながります。また、セロトニンは夜になるとメラトニンに変わり、質の良い睡眠を促します。
こうした習慣を親御さんも一緒に実践することで、子どもだけでなく、親御さん自身の心の負担も軽減できます。女の子には「お通じが良くなったり、肌がきれいになったりするよ」と伝えると、楽しみながら取り組んでくれることもあります。
不安を感じたら、気軽に相談を
現代の不安症は多様化・複雑化しています。「病院に行くタイミングが分からない」と悩む方も多いでしょう。一般的に、実生活に支障が出たり、学校や会社に行けなくなった場合が治療の対象ですが、私としては「少し辛いな」と感じた時点で相談してもよいと思います。生活に大きな支障が出る前に、気軽に話しに来てください。

取材協力
大和 行男氏
東京大学教育学部卒業。新潟大学医学部卒業。精神科・児童精神科を専門に、複数の医療機関で経験を積む。2024年1月、池上駅近くに『池上おひさまクリニック(https://ikegami-ohisama-clinic.com/)』を開業。
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