
知識だけでは測れない「感性」をどう育てるか アート教育の新たな試み
グローバル化や価値観の多様化が進むなか、知識の習得だけでなく、自分の考えや感情を表現する力をどう育てるかが教育現場でも問われている。一方で、「感性」のように数値化しにくい能力を、どのように育成し、評価するのかは簡単ではない。
こうしたなか、NArt株式会社は「詩性視覚主義(Poetic Visualism)」と名付けた独自の考え方を掲げ、言葉と視覚表現を組み合わせたアート教育に取り組んでいる。その狙いや課題について、代表取締役の孫暁丹氏に話を聞いた。
「言葉」と「イメージ」を組み合わせる「詩性視覚主義」とは
NArtが掲げる「詩性視覚主義」は、言語と視覚イメージを組み合わせ、自分の内面にある感情や思考を表現することを重視する考え方だ。孫氏によると、絵を描く技術や言葉の使い方を個別に学ぶだけではなく、感じたことや考えたことを言葉とイメージの双方で捉え直すことに特徴があるという。大量の情報に触れる機会が増えるなか、与えられた情報を受け取るだけでなく、自ら考え、表現する力につなげたい考えだ。
同社は2025年11月、熊谷守一美術館で「詩性視覚主義宣言展」を開催。小学生による作品展示やライブペインティングなどを行い、この考え方を作品として提示した。
もっとも、こうした概念的なアプローチがイベントや作品発表にとどまらず、教育現場で再現可能な方法として定着するかどうかは今後の検証が必要になる。
「正解」を求めない教育で何を育てるのか
同社が運営する絵画スクール「知育ART LABO」では、語学力や学力など数値で測りやすい能力だけでなく、自分の感情や考えを表現する力にも重点を置いている。孫氏は、人間力について「多様な文脈の中で共感し、自ら価値を創出する力」と捉えているという。そのため、決められた正解に近づけることよりも、それぞれがどのように感じ、考えたのかを表現する過程を重視している。こうした教育は、正解が明確な知識習得型の学習とは性質が異なる。自分の考えを言葉や絵で表現することが、他者との対話につながる可能性がある一方、その成果をどのような基準で評価するかという難しさもある。
特に「感性」や「表現力」は、テストの点数のように単純に比較できない。教育として広げていくには、子どもの変化をどのように把握し、学習効果をどう説明するかも課題となりそうだ。
企業や社会にアートをどう取り入れるか
NArtはスクール運営のほか、キュレーションや海外芸術進学支援、企業との連携なども手掛けている。
孫氏によれば、2022年にはハウスメーカーと「親子アート展」を実施し、親子が作品制作や鑑賞を通じてコミュニケーションを図る機会を設けたという。近年は、教育だけでなく企業活動や地域イベントなどにアートを取り入れる動きもみられる。作品を鑑賞するだけではなく、人同士の対話や新たな発想を促す手段として活用しようという考え方だ。
一方、企業とのコラボレーションやイベントは、単発の企画としては成立しても、継続的な事業につなげられるかは別の問題となる。企業側にどの程度の需要があるのか、教育的・社会的な価値をどのように示すのかも、今後の広がりを左右する。知識や正解を重視する学習に加え、自分が何を感じ、どう表現するかを重視する教育は、一つの選択肢として注目されつつある。
ただし、「感性」を育てることの効果をどのように確かめるのか、教育方法としてどこまで再現性を持たせられるのかなど、検討すべき点も少なくない。
「詩性視覚主義」という独自の考え方が、教育や企業活動のなかでどのように受け入れられていくのか。その評価は、今後の実践と検証によって定まっていくことになりそうだ。

【取材協力】
NArt株式会社
代表取締役 孫 暁丹
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