梅雨のメンタル不調は「光」との付き合い方がカギ
爽やかな季節も束の間、ジメジメとした梅雨の季節がやってきます。雨が続く梅雨の時期は気分が落ち込みがちですが、それは大人も子どもも同じこと。憂鬱な季節、子どもたちが学校へ行きしぶってしまうのを防ぐにはどうしたら良いのでしょうか。
今回は、不登校診療を専門とする不登校/こどもと大人の漢方・心療内科出雲いいじまクリニック(島根県出雲市)院長・飯島慶郎に解説していただきました。
■梅雨はうつになりやすい季節?
—梅雨の時期は心身のバランスを崩しやすく「うつになりやすい季節」などとも言われます。これは一体なぜなのでしょう。
飯島院長
個人的な経験としても、雨が続く梅雨時期というのは、憂鬱な気分になりやすいものです。このあたりについて医学的になにか根拠を示しているものはないかと、国内外の論文を検索してみました。しかし、秋から冬にかけてうつ病が増加するという報告は比較的目にしますが、梅雨においてうつ病が増加するという報告はほとんど見当たりませんでした。梅雨は日本特有の気象で、気候の異なる海外ではまったく問題にならないのかもしれません。
一方で「日照不足」という観点からは説明できそうです。日照時間の不足がうつ病のリスクになりうることや、豊富に日光を浴びることがうつ病の回復を促進することなどについては、多くの根拠論文が見当たりました。また、日照は脳内伝達物質であるセロトニンやメラトニンの分泌と大きく関わると言われます。一般にセロトニンはうつ気分や不安と大きく関わり、メラトニンは良好な睡眠を取るために重要とされています。
冬から春にかけて順調に日照時間が伸びていくのに適応していた身体にとって、急激に日照が落ち込む梅雨は、強い「落差」として気分や睡眠に悪影響を与えるのではないかと推察されます。うつ病の発症が秋から冬にかけて多いことも、日照時間が減ることと大きく関連するとされています。おそらく、梅雨のない諸外国ではうつ病の増加は秋冬だけ、梅雨という日照不足にさらされる日本においてはこの時期にもうつが増えるということなのかもしれません。
■梅雨の時期に子どもたちが引き起こしやすい不調とは
ー梅雨の時期には子どもたちもメンタル不調を起こしやすいのでしょうか。
飯島院長
梅雨時期に子どもたちがとりわけメンタル不調を起こしやすいかというと、必ずしもそうではありません。ただ、大人でも子どもでも、片頭痛性の症状を持っている人はこの時期に悪化する印象があります。片頭痛の季節別の症状に関するデータはないため、あくまで印象ですが、薄暗い日が続いたり、突然一瞬晴れ間がさしたりという、光の強弱にさらされることが片頭痛の発作の誘発になると思われます。
また、東洋医学的には梅雨時期のジメジメした気候は時として人体に害悪を及ぼすとされ、『湿邪』と呼ばれます。湿邪が体に侵入した場合に呈する症状には、だるさ、眠気、体の鈍い痛み、むくみ、胃もたれ、食欲低下などがあるとされ、とくに一般的なのは体が重く感じたり、だるさを感じたりすることだと言われています。このような影響を受けるのは子どもたちも例外ではないでしょう。
■季節の変化や気象条件がメンタルに及ぼす影響
—梅雨など気象環境に影響されるメンタル不調は毎年同じように繰り返すものなのでしょうか。
飯島院長
実は 『季節性うつ病』という正式な医学病名も存在します。文字通り季節によるうつ症状の悪化を繰り返すのが特徴のうつ病の一種です。基本的には冬場に症状が悪化する冬季うつ病がメインですが、一部には春から夏にかけて悪化する人もいるようです。
ただ、季節性うつ病と診断されるのはうつ病の患者さんの中でもほんの一握りだけですから、うつ病全般や、健康な人には当てはまらない特殊な病態と考えて良いと思います。毎年同じように季節により大きく気分が変動するならばこの病気の可能性を疑ってみても良いでしょう。
■梅雨の不調にどう対処する? 「光」との付き合い方がポイント
—GW明けの不調を起こさないためにはどうしたらいいのでしょうか。
飯島院長
これまでお示ししたように、とくに梅雨時期のメンタル不調には日照の不足が大きな要因になるように考えられます。昼間は窓際などできるだけ明るい場所で過ごすようにし、室内照明なども上手に使いましょう。
ところで、今回の論文検索によると、日中の日照がうつ病の予防や改善に役立つと言われる一方、夜間に人工光(特にスマホやタブレットのブルーライトが有害でしょう)に接すると逆にうつ傾向が強まるという研究も見られました。日照の少なくなる梅雨時だからこそ、夜間の人工光への接触を減らすことが大切になってくるのではないかと思います。
特に、子どもの場合は夜間にスマホやタブレットに接することで極めて簡単に睡眠覚醒リズムの乱れ(朝起きられない)を引き起こしてしまいます。私の臨床上でも、日没以降、スマホやタブレットを制限することでリズムを回復できるケースにはたくさん遭遇しています。
梅雨の時期をきっかけとして、夜間の人工光への接し方を考えてみるのも良いでしょう。
不登校/こどもと大人の漢方・心療内科出雲いいじまクリニック
院長 飯島慶郎(不登校専門クリニック心療内科 漢方内科)
https://sites.google.com/view/izumo-iijima-clinic
所在地:島根県出雲市大社町杵築東454
2018年全国初となる不登校診療専門クリニックを開設し、治療に力を入れこれまで延べ100人以上の不登校患者を改善に導く。患者に学びながらオリジナルの診療法を確立し診療にあたるさなか、自身の娘の不登校も経験。多くの不登校児と娘の診療を通じて、不登校の背後には子どもの「精神疾患」があるということに気づく。
志を同じくする医師たちに自らが培ってきたノウハウを提供することで、全国へ不登校診療クリニックのネットワークを拡大することを目指す。
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