
「背中を見て学べ」はもう通用しない?世代間ギャップを埋める実践型研修の可能性
労働力人口の減少や働き方の多様化が進むなか、企業における世代間のコミュニケーションギャップが課題となっている。かつての「背中を見て学ぶ」という環境で育った管理職層と、分からないことを積極的に質問する若手社員との間で認識のずれが生じ、人材育成がうまく機能しないケースもある。そうしたなか、ゲームの手法を用いた実践型の研修プログラムを通じ、組織課題の解決に取り組む企業がある。株式会社ベアラボ代表取締役の滝井順子氏に、現代の企業に求められる研修のあり方について聞いた。
「背中を見て学ぶ」と「何でも聞く」が生む世代間ギャップ
近年、新入社員の仕事に対する姿勢に変化が見られるという。同社によると、最近の若手層には、周囲に質問することへの心理的な抵抗が比較的少なく、自分で考える前に、まず人に聞く傾向が見られるという。
それに対して、新卒社員を教える側の上司世代には、「自分が若い頃は丁寧なOJTがなく、先輩の働く様子を見ながら仕事を覚えてきた」という環境で育った人も多い。結果として、「背中を見て学びなさい」と考える上司と、分からないことを積極的に質問する部下が同じ職場で働くことになり、双方に不満が蓄積しやすい状況が生まれていると同社は分析する。
ただし、こうした世代間のギャップは、個人の性格やコミュニケーション能力だけに起因するものではない。労働環境の変化や価値観の多様化に対し、企業側の教育体制の更新が追いついていないという構造的な課題もあると考えられる。
なぜ座学だけでは現場に定着しないのか ゲーミフィケーションの試み

こうした課題に対して、株式会社ベアラボは「ゲーミフィケーション」を取り入れた研修に取り組んでいる。ゲーミフィケーションとは、ゲームの仕組みや要素を、ゲーム以外の活動に活用する手法を指す。
同社代表の滝井氏は会社員時代、「仕事が忙しいなか、会社から言われて参加する研修」に、十分な有用性を感じられないことがあったという。自身が研修に関わるのであれば、参加者に何らかの学びが残る内容にしたいと考え、グループワークやゲームを取り入れるようになったと説明する。
研修では、座学で知識を学んだ後、その知識が必要となるゲームやグループワークを行い、「知っている」ことと「できる」ことの間にあるギャップに気づいてもらう。さらに振り返りを行い、職場でどのように実践するかまで考えることで、学びを行動につなげることを目指している。
もっとも、ゲームを取り入れること自体が目的ではない。同社では、ゲームを通じて得た気づきを振り返り、「これが配属先の現場だったらどうするのか」を考えたうえで、実際の職場で実践を重ねることを重視している。こうした「気づき」「振り返り」「実践」のサイクルを繰り返すことで、知識を現場で活用できるスキルとして定着させる考えだ。
管理職の意識改革 組織を変える「実践型研修」の現在地
前述した世代間ギャップに対応するため、同社では、若い頃に見よう見まねで仕事を覚えてきた管理職世代に向けた研修も実施している。具体的には、傾聴の方法や質問の仕方といった基本的な領域から学び直すプログラムを用意し、時間的な余裕が少ない職場向けには、1日で完結する短期プログラムも提供しているという。
同社の説明によると、受講する管理職からは当初、「自分がOJTを受けた経験がないため、教え方が分からない」「急に傾聴と言われても、これまで感情を表に出さずに仕事をしてきたため難しい」といった戸惑いの声が上がることもある。
これに対し、自身が新人だった頃に憧れていた社会人像を振り返る機会を設けるなど、これまでの考え方を見直すきっかけをつくっているという。
一方で、管理職が研修で学んだ内容を現場で実践し続けるには、本人の努力だけでは限界がある。管理職の変化を組織として受け止め、評価し、後押しする環境があって初めて、人材育成は一過性の研修にとどまらず、組織文化として根付いていく。
今後の人材育成のあり方から見える組織の未来
今後は、研修という目に見えやすい手法だけでなく、組織全体の底上げを図るアプローチも求められる。同社は組織開発を、ビジョンの浸透や強みを生かしたキャリア形成、チームビルディングなどを通じた「人と組織がともに成長する仕組みづくり」と位置づけている。
そのため、現場の課題解決だけでなく、経営層への支援を含めた組織全体への働きかけにも取り組んでいるという。現場研修は成果を確認しやすい一方、持続的な成長には、経営層が方向性を示し、社員がそれぞれの強みを発揮できる環境を整えることが重要だと考えているためだ。
労働力人口の減少やAIの普及が進むなか、企業には採用を強化するだけでなく、人が継続的に力を発揮できる組織を形成することが求められている。同社は、人材力、組織力、関係性を高め、人と組織がともに成長することが、企業の持続的な成長につながると考えている。
単に知識を教えるだけでなく、現場で実践し、定着させる仕組みをどのように構築するか。社員が力を発揮できる職場環境を整えることも、これからの人材育成を考えるうえで重要な視点となりそうだ。
【取材協力】
株式会社ベアラボ
代表取締役 滝井 順子
https://www.bearlab.co.jp/
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