太ももの付け根に痛みやしこり・・放置は危険? 医師が解説
冬季は体が冷えやすく、膝や足など体のさまざまな部分に痛みを感じる方が多いかもしれません。その中で、鼠径部に痛みや違和感を覚えたことはありませんか? 実は、鼠径部に現れるしこりや痛みには、軽度の症状から深刻な疾患に至るまで、さまざまな原因が考えられます。こうした症状に対しては、早期に原因を特定し、適切な治療を受けることが重要です。今回は、MIDSクリニックの田村卓也院長に「鼠径部にしこりや痛みが現れた場合に考えられる疾患」についてお話を伺いました。
鼠径部(そけいぶ)とはどこ?
鼠径部は太ももの付け根、左右の足の付け根の溝から恥骨の外側にかけての部分を指します。イラストでは青い点線で囲まれた場所がこれに当たります。ここは胴体と脚をつなぐ部分で、構造が少し複雑です。この部分にしこりを感じた場合、次のような病気が考えられますが、まず鼠径ヘルニアを疑い、必要に応じて医師に相談しましょう。
①鼠径ヘルニア
鼠径部には筋肉の隙間があり、そこから腸や膀胱などの内臓が皮膚の下に飛び出す病気です。飛び出した内臓が戻せない状態(嵌頓)になり緊急手術が必要になることがあります。そのことから鼠径部にしこりを感じたら、まず考えるべき病気です。
②リンパ節腫大
しこりがはっきりとした形をしていて、押すと左右に動く場合や痛みを感じる場合、リンパ節の腫れが原因かもしれません。鼠径部や腋の下(腋窩)はリンパ節が多く集まる場所です。リンパ節は細菌やがん細胞を防ぐ役割を果たします。
痛みを伴う場合:感染症によるリンパ節炎の可能性
痛みがない場合:がんの可能性
③軟部腫瘍・膿瘍
脂肪腫や皮膚の下にできる粉瘤などが原因で、鼠径部にしこりができることがあります。場合によっては切除が必要になることもあります。
④ヌック管水腫
若い女性に多い病気で、水がたまった袋(水腫)が鼠径部にできる状態です。鼠径部の膨らみとして感じられることがあり、子宮内膜症と関係がある場合もあります。
鼠径ヘルニアとは?
鼠径ヘルニアは、鼠径部の筋肉の隙間から内臓が皮膚の下に飛び出す病気です。「脱腸」とも呼ばれ、30代以降に発症率が上がります。男性に多い病気で、男女比は8:1ですが、女性が発症することもあります。
主な症状
立ったときやお腹に力を入れたとき:鼠径部に膨らみが現れる
横になったとき:膨らみが消える
自然に治ることはなく、市販のヘルニアバンドでも治療効果はありません。治療には手術が必要で、内臓が飛び出した筋肉の穴を人工の網(メッシュ)で補強します。手術方法には「鼠径部切開法」と「腹腔鏡手術」があります。
鼠径ヘルニアの痛みについて
鼠径ヘルニアは、痛みを感じないことも多い病気ですが、症状が進行する過程で痛みが現れる場合があります。初期段階では、鼠径管が拡張される際に筋膜が裂けるため、痛みを伴うことがあります。また、膨らみが大きくなると、脱出した内臓が筋肉の穴に締め付けられ、腸管の血流が低下することで痛みが生じます。さらに、内臓が飛び出したまま戻らなくなる嵌頓(かんとん)という状態に進行すると、生命に危険が及ぶ可能性があります。そのため、鼠径ヘルニアが疑われる場合は、早めに医師の診断を受けましょう。
嵌頓とは
「嵌頓」とは、内臓が飛び出したまま元に戻らなくなる状態を指します。この状態になると、腸管の血流が途絶え、約12時間で腸管が壊死し、腸に穴が開いて腹膜炎を引き起こし、最終的には敗血症に至る可能性があります。また、腸管の通りが悪くなり腸閉塞が生じるほか、重度の脱水症状を引き起こすこともあります。これらが進行するとショック状態に陥り、緊急の治療を行わなければ24~48時間以内に命に関わる事態となります。
このような危険な状態を未然に防ぐことが、鼠径ヘルニア手術の大きな目的です。鼠径ヘルニアは軽い症状に見えることもありますが、放置することで重大な健康リスクを招く可能性があります。早期発見と適切な治療が何より重要です。
取材協力
MIDSクリニック
院長 田村卓也
https://misc-sokei.com/
取材/文 石田あかね
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